【読書感想】「サステナブル資本主義」村上誠典/長期・全体化と複雑化
今回は、祥伝社「サステナブル資本主義」(村上誠典(著))の読書感想です。
結論
目次
基本情報
著者は、村上誠典さん。シニフィアン株式会社共同代表の方で、スタートアップ投資や経営支援、成長企業向けのアドバイザリーなど企業のお医者さんのようなお仕事をなさっています。
ゴールドマンサックスでの勤務経験等を経て、持続可能な社会、未来世代に引き継ぐ産業創出をしたいと思うようになられたようです。
実現のカギとなるのは、従来型の資本主義を変えること、すなわちお金中心から人と社会が中心のサステナブル資本主義を目指すこと、と主張されています。
本著では、従来型資本主義の限界や問題点、持続可能社会実現における消費者の重要性、サステナブル資本主義でリーダーになれる日本といった内容が書かれています。
今後目指すべき社会の在り方、消費者・労働者としての我々の在り方を見直すきっかけになる一冊だと思います。
読もうと思った理由
日本の劣悪な労働環境は、現行の経済体制が原因と思っており、何か変えるヒントが欲しいと思ったからです。
働き方改革のもと、各々の企業が改善の努力をされていると思いますが、日本全体としては未だに心身共にハードな環境だと感じます。
そして、だいたいどこの職場も忙しいけれども(ときには壊れてしまうくらい)、大変悲しいことに日本人の給料は約30年間ずっと横ばいです。
これはそもそもの、日本の経済体制に原因があるとしか思えない。
一体どうすればいいのかヒントをもらうべく、人にもお金にも社会にもサステナブルな経済とは何なのかを知りたいと思い、購入しました。
個人的見どころと感想
サステナブル資本主義とは
持続可能な社会の実現のために、従来より長期・全体最適を目指した資本主義だと読み取りました。
お金だけでなく、人や社会の持続性を考慮した点が重要です。
企業・消費者に必要な考え
サステナブル資本主義の実現にあたり、企業と消費者、それぞれで必要な考えについて述べていらっしゃいます。
企業(経営者・労働者)に必要な「ステークホルダー主義」
企業(経営者・労働者)にはステークホルダー(利害関係者)主義による経営が必要だと主張されています。
ステークホルダー主義とは、従業員も含めたあらゆる人に利益を還元する考え方で、今や世界の潮流になってきているようです。
例えば利益の分配については、従来型では性質的に株主偏重でしたが、従業員への配分を増やすことを目指します。
株主や経営者のリスクに見合わない、という見方もできますが長期的・全体的に見れば、わりと見合っていると考えるのが、サステナブル資本主義の考えだと思います。
なぜなら、従業員に不満、不公平感を抱かせればパフォーマンスに影響しますし、育つ前に辞めてしまったり、優秀な人が集まらないことなどが考えられるでしょう。
また、従業員は就業時間外には消費者でもあるので負の感情を抱く企業の商品は積極的に買うことをしなくなる可能性があるでしょう。
そうした見方をすればわりと見合っており、持続性の観点からはよいと言えそうです。
従業員だけでなく、他のステークホルダー(地域社会なども含む)の場合も同様に考えていきます。
そうした背景もあって、持続可能な社会を目指すうえで「ステークホルダー主義が必要だ」という考えが、徐々に広まりを見せてきています。
消費者に必要な「投資家マインド」
消費者には投資家マインドが必要だと主張されています。
投資家マインドとは、価値を適切に認識する姿勢だと読み取りました。
価値を適切に認識する姿勢とは具体的に何でしょうか。
それは、商品・サービスの価格が妥当なのかを考える姿勢であり、何を取捨選択して定量化されたのかを考えることだと思います。
例えば目の前の商品・サービスの値段の安さは、環境や人の犠牲の上に成り立っていないだろうか、これを選択した先の自分や他人や社会の未来はどうなるだろうかと想像しながら消費しようとすることだと思います。
では次に、なぜ消費者に投資家マインドが必要なのでしょうか。
理由は、消費者による社会への影響力が大きいからです。
現状、投資家の間でカネ余りが課題となっています。投資したくても投資先があまりない状態です。
この現状から著者の方は、投資家が社会に与えられる影響力に限界を感じられているようです。
しかし、少数でも消費者が購入したという実績があれば事情が違います。
その実績が投資判断の材料となり、資金が集まって、企業価値が大きく上昇させるという現象が起きている、とのことです。
著者の方は現場での経験から、消費者の力の大きさ、必要性を強く実感したと述べられています。
どんなに企業が持続可能な社会のために価値ある事業を行っていても、消費者がその価値に気付いて消費しないことには意味がない、だからこそ投資家マインドが必要だとおっしゃっているのだと思いました。
でも、実現は?
ここまで企業、消費者に必要な考えを紹介してきましたが、どのように実現すればいいのでしょうか。
本著でも述べられていますが、めちゃくちゃ難しいです。
例えばステークホルダー主義経営といっても、長期・全体的に考えていけば様々なステークホルダーが、どこにどんな影響を与えるのか非常に複雑に絡みます。
ごく簡単な例でも、先ほど書いたように従業員の配分を増やせば、ライバル企業との競争において不利な面もあり、最悪倒産の可能性もあります。
しかもそれが、リアルタイムに目まぐるしく変化しています。
また、持続可能な社会を目指す取り組みは、結果が出るのか見通しが立たないことも多く、長期間辛抱強く取り組んでいく必要があります。
見通しが立たない事業を長期的に、複雑なステークホルダーマネジメントを適切に行いながら継続していく必要がある、ということです。
そんな困難なことをやってのける、超人のような人材が必要です。
また、人が社会に目を向けられるようになるためには余裕が必要ですが、多くの日本人は、先に見た労働環境をはじめ、自分の身の回りのことで精いっぱいだと思います。
このように、持続可能な社会実現へのハードルが高く、非常に困難です。
だからと言ってこのままでいることは、短期・部分的にリターンがありますが、長期・全体的には確実にリスクです。
何ができるのか、現在も模索中です。
個人的に大事だと思った視点
歴史をしっかり踏まえる
従来型の資本主義はダメだ、変えよう!と考えるのは正しいのですが、その前に従来型の資本主義の良かった面や、現状等も含めてしっかり整理したうえでことを進める必要があると思いました。
そうでなければ、箱だけ変わって中身は一緒。結局、同じ過ちを繰り返すことになりかねません。未来に向かって積み上げたいのです。
従来型資本主義も今になって機能不全を起こしてきただけで、我々に豊かさをもたらしてくれたのは間違いありません。一旦、役割を終えただけだと考えています。
見切り発車をすることがないよう、資本主義の歴史を知ることからはじめようと思いました。
美意識を鍛える
本当に拡大すべきは、社会の豊かさの総量のはずです。(p182)
『資本主義の終焉』の著者として有名な水野和夫さんや、過去記事で取り上げた『仕事ができるとはどういうことか』の著者である山口周さんは、美意識を鍛える重要性を述べられています。
いままで私は、はてなマークが浮かぶだけでしたが、なぜ必要なのかわかってきたというだけの感想です。
我々はこれまで、とりあえずGDPという数字の拡大を目標に頑張ってきたわけですが、色々と不都合が生じて見直す動きが出てきている、というのが現状だと思います。
そこで、GDPが見過ごしているものはなにか、何を取捨選択して定量化(=GDP化)されたのかを考えることが大事なのだと思いますが、その際に必要になってくるのがセンスであり、美意識ということなのだと思います。
これからの時代に、定性的な能力たるセンスが求められる理由はこれだったのかと、勝手に一人で納得しました。
まとめの感想
まずは、私は商品・サービスを正規の値段で買う機会を増やしたいと思います。重労働への適正な対価としてです。
しかし、利益の増加分は従業員に渡っているのだろうかという疑問も浮かんできます。労働環境を変えるのも一筋縄にはいかないですね。本当に難しい。
持続可能な社会の実現の難しさをこれでもかと実感した一冊でした。おすすめです。