【読書感想】「学校では学力が伸びない本当の理由」林純次/時代にふさわしい教育
今回は、光文社新書「学校では学力が伸びない本当の理由」(林純次(著))の読書感想です。
結論
- 学力とは、単なる知識・暗記力ではなく、より広い概念
- 学力が伸びない理由は、一斉授業、教員の質の低下、劣悪な労働環境など
- 解決方法は、学びの個別化、教員の評価制度の導入、家庭支援の充実など
目次
基本情報
著者は、林純次さん。大手新聞記者→フリージャーナリスト→・・・と経て、現在は関西の私学で教鞭を執りながら、教師向けインストラクターなどを務めていらっしゃいます。
本著では「はじめに」の部分で、20年に渡る教師生活の経験から日本の学校では学力が伸びないと主張されています。
また、現行の学校教育について、広範に現状と問題を取り上げ、解決策を提案されています。
現場で真摯に教育に携わっていらっしゃる方であり、さすがと言うしかない内容。
私が対人援助職に従事していた経験から見ても、非常にリアルで納得感のあります。
何度も心の中でうなづきながら読んでいました。
読もうと思った理由
私は、力及ばず対人援助職を辞してしまった身です。
どうすればよかったんだろうと考えてしまうことが今でもよくあります。
また、フリーターの身でも、人にものを教える機会はあります。
そういったことから、一教育者の方の考えを知り、自分も教育に関する考えを深めたいと考えたため購入しました。
個人的見どころと感想
まず、学力とは何か
学力とは何を指すのでしょうか。少し調べたところ、わりと人によって曖昧でバラバラの意味で使っているようです。
本書では明確にこれというものは示されていませんが、学校教育法30条に示されたものや、学力観の変化について記された部分があります。
ここには,学力の重要な3つの要素が示されている。
(1)基礎的・基本的な知識・技能
(2)知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等
(3)主体的に学習に取り組む態度
その学力観が暗記一辺倒から、暗記+思考力+言語力+行動力になってきたことはここからも窺える。(p30)
私の頭では理解できている自信はありませんが、単なる知識量や暗記力のことを言っているのではないという点が重要でしょう。
学力が伸びない理由
特に関心のあるテーマに絞り、紹介します。
全員が、同じ時間、場所、内容で行う授業
従来の一斉授業方式では、能力が高い子も低い子もデメリットが大きいと主張されています。
高いグループはすぐに理解済みの内容を長々と聞くことになります。
低いグループは理解できない内容を長々と聞くことになります。
中くらいのグループは、教師が低グループのサポートに回るため、教えてもらう時間が少なくなってしまうでしょう。
このように、どのグループにとってもデメリットが大きいという主張だと理解しました。
勉強どころではない現状
かつての自分の経験も踏まえ、「生徒も学校も勉強どころではない」という現状があることを述べます。
子供の家庭環境が整っていない
責任転嫁だと指摘されようと、ゲノムの次に重い要素は幼少期の生育環境だと喝破し
たい。(p59)
あまり声を大にしては言えませんが、その通りでしょう。
トラブルにも丁寧に支援をし、苦心しながらなんとか信頼関係を積み上げても、家庭に戻ればまた逆戻りということも少なくありませんでした。
繰り返される暴言、暴力、ネグレクト等で心身に傷を負いながら、学校でまともに勉強など出来はしないでしょう。
落ち着かない教室
教室には、整っていない家庭環境で育った子や、障害を持った子も集まります。
授業中に立つなど、落ち着かない状態になることは珍しくありません。
30人のクラスで、5、6人の児童が暴れ、さらに数人の児童が認知に困難を抱えていることもあった。(p131)
そういった子を頭ごなしに叱ったところで逆効果です。表出されたものの根っこには深い問題を抱えているからです。さらに荒れることは目に見えています。
しかし、他の子供たちの目線では「先生、しっかり叱ってください」と思っています。ここできちんと対応出来なければ、教師への信頼失墜で話を聞かなくなったり、子供から保護者へ伝わりクレーム・・・と繋がっていきます。
個人と集団にとって最適な指導というのはそれぞれ異なり、両立させるのは困難です。
ただ叱ればいいというものではないので、授業はもちろん安定した学級経営には、総合的な人間力が問われるのです。
このように、勉強以外のところで割く労力も大きく、教室を落ち着いた環境にするのは簡単ではないため、落ち着いて勉強することは困難なのです。
教員の質の低下
学力が伸びない理由として、教員の質の低下について述べられています。
「教員数を増やすべき」と声を上げている。非現実的だ。数だけを増やしても現行の制度を維持したままでは、子供に触れさせられない人材が集まってしまい、育てることもできないと予想する。(p267,268)
仕事への向き合い方の温度差や、不勉強な教員などについて書かれております。
痛烈ですが、真剣に向き合っているからこその言葉なのでしょう。
どこの業界・職場でもある問題だと思うので、解決策は適材適所という言葉ぐらいしか浮かびませんが、本当に教員は適正が問われる職業だと思います。
劣悪な労働環境
日本の教員の労働時間は~(OECD)参加国・地域の中で最長であった。~このような拘束時間のなかで、授業のための準備をし、生徒を理解して最適なアドバイスができるよう勤しむ。~行事やクラスで発生した問題に向き合い、生徒の人格を磨いていく。
学校内の分掌業務を受け持ち、~部活を担当していれば、生徒の健康や安全に気をつけながら成果が残せるよう導く。親からのクレームが来れば何時間でもその怒りに付き合い、同僚の教員が落ち込んでいれば手を差し伸べる。
無理だ。スーパーマンでなくては成立しない仕事量と質であることが、おわかりいただけると思う。(p81)
授業関連以外の労力も非常に大きいです。
トラブル対応一つとっても、労力は結構掛かります。
平時から子供・保護者との信頼関係構築に努め、ルールや方針の事前提示、一人ひとりの子供や人間関係の観察・分析等がなければ、通用しません。
わかってくれない、関わりの少ない、尊敬出来ない人の言葉は、相手には届かない。当たり前です。
特に、上記の落ち着かない子や、やんちゃな子の場合はそうです。
場当たり的な、思いつきの対応ではなく、入念な準備をしたうえで、丁寧に対応しなければいけない。そうでなければ、対応出来ませんし、子供の成長に繋がりません。
人を教え育てるのは、本当に時間も労力も掛かることなのです。
そして、いくつかのトラブルが同時並行で起きるのが普通です。
ですが、教員の数も能力も、時間も全然足りないのが現状です。
さらに深刻なことに、教員に限った話ではなく、日本の労働環境全般がわりと劣悪です。
家庭環境が整わず、落ち着かない子がいるのも、様々な分野にまたがった問題です。
解決・改善案
本著では12の提言をされていますが、いくつか取り上げ、私の案も補足します。
学びの個別化・自由化
林さんからは、一人一人、理解の仕方や速さ、適する環境等が違うのだから、個別化・自由化すればいいという提案です。
場所の面では、学校で学びたい人は学校で学べばいいし、オンラインやホームスクーリングがいい人はそれでいい、といった具合です。
不登校児が増加している現状等に鑑みてです。
内容の面では、カリキュラムをレベル別・段階別に用意するというものです。
また、習熟度に応じて、飛び級や留年制度の導入も提案されています。
部活動のアウトソーシング
これはマストです。1秒でも早く行っていただきたい。
教員の評価制度の導入
定期的な教員対象の試験やランク付けのような評価制度の導入を提案されています。林さんによれば、かつての教員に比べ、自主的な学びが少なくなってきているそうです。何より、一番には子供達が不利益を被ってしまわないためにも必要な制度でしょう。
実用性重視の学習内容を優先的に
これは、私の提案です。私が知らないだけで、もしかしたらもう実現してるかもしれませんが・・・。
税金、保険、確定申告、労働基準法、役所の利用法、生活困窮時の制度等は義務教育に組み込んでほしいなと思います。
古文・漢文の知識も人生に深みを持たせてくれたり、役立つ面があることは間違いありませんが、優先順位としては上記のもののほうが高いかなと考えます。
「いや、これ学校で教えてよ」と思うような知識は、大人になってから知ったことが多い印象です。
家庭支援の充実
これも私の提案ですが、やんちゃな子や、落ち着かない子の家庭は、家庭環境が整っていないことがわりと多い印象です。
学校での授業や支援をいくら質の高いものにしても、土台が安定していない状態です。
子供だけに一生懸命向き合っても、根本的な解決になりにくいのです。
家庭内での改善は、通常ほぼ見込めません。行政やNPOなどの第三者による家庭支援は、必須だと考えています。
まとめの感想
他にも本著は、考えさせられる内容ばかりです。それだけ熱意が込められているように感じます。
現職の方には一度、手に取っていただければ「そう、それ!」と思うことが少なくないでしょう。
なんだか全体的に先行き不安な、暗い内容になってしまった感じがします。
教員の仕事はやるべきことが青天井で、人生を捧げないとまともに出来ないような気がします。
しかし、それに見合うやりがいも青天井であることは間違いありません。
一度携わった身として、自分が生きているうちに、ほんの砂粒程度でもなにか教育界に貢献出来ることを探していきたいと思います。